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2017年(平成29年)5月18日
社会保障・社会福祉は国の責任で!
憲法25条を守る
5・18共同集会の開会に
あたって(基調報告)
尾 藤 廣 喜
(弁護士・生活保護問題対策全国会議代表幹事)
1 本日、「5・18共同集会」の開会にあたりまして、呼びかけ人の一人として、一言ご挨拶とあわせてこの集会が開かれました趣旨、目的につきまして基調報告をさせていただきます。
私は、生活保護問題対策全国会議代表幹事であります尾藤廣喜と申します。
2 昨年の5月12日、この日比谷野外音楽堂で、「憲法25条を守る5・12共同集会が持たれてから約1年が経ちました。
前回の集会では、この国に、「格差」が大きく広がり、「貧困」化が深く進行していることを申し上げました。あれから1年が経過しましたが、「格差」の広がりと「貧困」の深化は残念ながら、益々すさまじい勢いで進行しているといわざるを得ません。
前回でも触れましたように、所得の格差を示す「ジニ係数」は、1981年には0.3491と日本は比較的格差が少ない国とされていました。しかし、これが、2002年から2011年にかけて順次大きくなり、2014年には0.5704と過去最大の値となっています。格差が益々大きくなっているのです。
「相対的貧困率の推移」を見ても、1985年には12.0%でしたが、1997年には14.6%、2000年には15.3%、2009年には16.0%、そして、2012年には16.1%とさらに悪化しています。また、子どもの相対的貧困率も2000年には14.5%、2009年には15.7%、2012年には16.3%と急激に悪化しています。ひとり親世帯の相対的貧困率は54.6%で、2世帯に1世帯以上が貧困世帯となっています。
今や日本の貧困は、特定の世代に限られた問題ではありません。また、女性に限られた問題でもなく、男性に限られた問題でもありません。
非正規雇用やブラック企業の増大、低額すぎる最低賃金が、若者の貧困化を招き、高利の奨学金の負担がこれに拍車をかけています。健康格差、過労死を招く長時間労働、さらには、父母の介護負担などが中年世代の貧困を深刻なものにしています。また、女性の非正規雇用率の高さや低賃金、シングル・マザーについては、離婚後の元夫からの養育費負担の不履行などによる女性の貧困の状況は改善の兆しすらありません。ひとり親世帯の相対的貧困率の際立った高さがこれを雄弁に物語っています。
高齢者には、低額すぎる年金、医療や介護の負担が重くのしかかり、「下流老人」「老後破産」が流行語となる事態まで招いています。日本の子どもの貧困の深刻さは、今や世界的にも注目されています。
3 憲法25条1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めています。また、25条2項では、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めています。
今こそ、市民の生存権保障を実質化するために、国の責任で社会保障制度の充実を行うことこそが強く求められています。貧困の原因に合わせた対策が必要なのです。私たちは、憲法25条に基づいてこれを権利として請求できるのです。
しかし、安倍政権は、このような姿勢で国政に取り組もうとはしておりません。
医療では、高額で支払えない保険料、患者の自己負担の増加、保険で給付される医療の制限など、大幅な後退がすでに実施され、または、今後計画されています。このため、経済的な理由で治療が遅れ死亡してしまった患者の例が後を絶ちません。介護では、要支援1、2の人たちを介護保険の利用から排除していますが、要介護1、2の人たちをも利用から排除し、利用料負担3割を導入し、2割の範囲をさらに拡大しようとしています。年金では、「マクロ経済スライド」による年金額の減額、支給開始年齢のさらなる引き上げが実施されようとしています。生活保護では、平均6.5%、最大10%3年間で総額670億円にもおよぶ生活扶助基準の引き下げ、申請手続きの厳格化などの法「改悪」、そして、追いかけるように住宅扶助基準の引き下げ、冬季加算の引き下げなど制度が後退し、さらに全ての加算・級地の見直しなどの改悪が進められようとしています。
障がい者の分野でも、障害者総合支援法が2013年4月に施行されましたが、障害者自立支援法違憲訴訟原告団と政府の間の基本合意の内容や政府の障がい者制度改革で2011年にとりまとめた障害者総合福祉法の「骨格提言」の実現には程遠い状態が続いています。また、今国会で審議中の精神保健福祉法改正法案は、相模原市で起きた「やまゆり園事件」がなぜ起きたのかの十分な検討もないままに、精神の障害によるものと決めつけて「措置入院」制度の運用の厳格化のための法改正を行うことにしています。しかし、障がいのある人が安心して尊厳ある暮らしができるようにするためには、障害者権利条約批准国にふさわしく、また、障害者への監視を強めるという方向ではなく障害者権利条約に則した制度改正こそが本当に必要なのです。
また、保育では、「待機児童」問題が大きな注目を集めましたが、これを「定員緩和」などによる詰め込み保育でおざなりの対応をする動きも目立ってきています。さらに、最近では、子ども保険構想なるものも自民党内部で検討されています。しかし、介護保険での失敗を子どもの福祉の中で再発させてはなりません。
福祉、医療を担う職員の不足、処遇改善への取り組みも、遅々として進んでいません。仕事の専門性や難しさにふさわしい賃金や労働条件の整備が棚上げされたまま、人手不足を口実に、職員の配置基準や資格要件の緩和がすすめられています。
4 このような政策を政府が次々と実行している根本には、2012年に成立した「社会保障制度改革推進法」と2013年に成立した「社会保障改革プログラム法」があります。これらの法律は、憲法25条の理念に反して、「社会保障・社会福祉は自助、共助が基本である」との考えを柱として、しかも、その財源を消費税に求めています。ここでは、権利としての社会保障の考え方、さらに、国の責任は大きく後退しております。「『我が事・丸ごと』地域共生社会」の実現の名によって、「公的サービスから除外された人々に対する支援」を営利企業の参入促進、社会福祉法人の「地域貢献」事業、地域住民の「助け合い」に押しつけ、大幅な公費負担の削減を企てようとしていることは大きな問題です。にもかかわらず、政府・与党が、その第一段として「地域包括ケアシステム強化のための介護保険法改正法案」を中身もほとんど検討もされないままに衆議院厚生労働委員会で強行採決したことは決して許されることではありません。
まさに、これらの動きは、憲法25条の空洞化が行われていると言っても過言ではありません。
このような社会保障における「国の責任」の後退の理由として、「財政危機」があげられています。
しかし、安倍政権は、一方で大企業には優遇税制を施し、一握りの富裕層に富が集中する結果を招いています。これが、格差拡大の大きな原因となっているのです。また、昨年にはマスコミが取り上げた「パナマ文書」問題に代表される「タックス・ヘイブン(租税回避地)」問題は、今やどこかに忘れさられようとしています。財政問題の改善のためには、私たちが、税金の使い道を監視し、公正な税制を確立し、所得の再分配を強めていくことが必要です。
安倍首相は、「安全保障関連法」(戦争法)を成立させ、防衛費を5年連続で増額し、東アジアの安全と朝鮮半島の情勢に対応するためと称し、5兆円を突破させました。そして、「共謀罪」の導入に躍起となり、最近では、2020年までに憲法9条に自衛隊を明記する「改憲」を実現したいと公言しています。
しかし、今、政府が行うべきことは、憲法9条を変えることではなく、9条を守り、さらに憲法25条を実質化することではないでしょうか。
防衛費の増額ではなく、社会保障費の増額ではないでしょうか。
5 誰もがいきいきと希望を持って生きられる社会を作ることは、私たちみんなの願いです。政府が社会保障を後退させようとしている中でも、私たちの要求を集め、訴えることによって情勢を変えることはできます。生活保護世帯の入学準備金の入学前前倒し支給の実現や、各地で広がっている子ども医療の無料化にペナルティを課さないことの実現などは、運動の大きな成果です。
また、高齢、障がい、保育、生活保護などの当事者が、不服申立てや裁判などに勇気を持って立ち上がっており、支援者・学者・弁護士の応援を受けて、政府に処分の取り消し、改善、改正を求める運動は大きく広がっています。
私たちは、これらの運動に参加し、応援しましょう。
また、相模原市の「やまゆり園事件」に表れたような、命の大切さ、尊厳を無視した、優生思想に基づく差別を決して許さないという政治、社会に変えていくことも極めて重要です。
社会保障の現状と問題点は、まだまだ知られておりません。さらに、不公正税制の問題と保険主義の限界の問題は広がっておりません。
「社会保障・社会福祉は国の責任で!」「憲法25条を守ろう」「社会保障制度改革推進法を廃止しろ」「戦争法を廃止しろ」「立憲主義を守れ」「共謀罪を認めるな」という大きなうねりを全国すみずみまで広げていこうではありませんか。
社会保障制度の権利を確立し、その充実を求めるためには、高齢者、障がいを持つ人々、保育を求める人達、生活保護の利用者、さらには、非正規労働者、最低賃金の増額を求める人達などがお互いの主張を交流し、つながっていくことが必要です。ぜひ、つながりましょう。
そのために、実りある報告と学びあいができますように、この集会の成功を皆さんに訴えて、私の基調報告と致します。
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